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『KAGEROU』の感想レビュー(小説)

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ポプラ社から、『KAGEROU』(齋藤智裕先生原作)が発売中です。
齋藤智裕先生=俳優の水嶋ヒロさんの著書である本作が『第5回ポプラ社小説大賞受賞作』となったことは御存知の方が多いと思いますし、累計受注数は40万部を超えているそうなので、処女作ながら注目度は抜群ですね。

表紙は青い十字架マークが印象的ですが、これは作中に登場する医療法人『全日本ドナー・レシピエント協会』略して『全ド協』のシンボルマーク。
お話的には、主人公のヤスオが冒頭で出会うことになったキョウヤが所属する組織が『全ド協』なわけですが、その職務内容を聞かされたことで、借金まみれで自殺目前のヤスオに人生最後の転機が訪れて…という展開です。

主人公のヤスオが40歳最後の日を迎えるところという年齢設定が、まず意外でしたね。
なんとなく、主人公役は水嶋さんのイメージを投影するような感じの設定になるのかと思っていたのですが、現代社会のどこにでもいそうな中年男性が主人公で、しかもリストラ&借金苦で人生下り坂…と、カッコイイ主人公像とは真逆のポジショニングになっているのが斬新でした。

ざっくり言うと、どうせ死ぬなら、人に迷惑をかけず、親にもお金を残して死ぬ方法があるとキョウヤに持ちかけられたことで、自分の遺体を臓器提供することを条件に死亡をプロデュースしてもらう、というのが本作の大まかな流れなわけですが、明らかに普通の組織ではない『全ド協』の秘密結社ぶりと、既に自殺する覚悟も出来たヤスオのある種の『開き直り』っぷりがどんな結末を見せてくれるのか気になって、最後のページまであっという間に読み進めてしまいました。

お金が無くなったことから不幸続きの人生へとドロップアウトしてしまった中年男性の悲哀と、行き詰まり感から生きる希望を失い、安易に自殺を選択する現代人の傾向が色濃く感じられる設定は、生と死をテーマに扱った本作においてやけに生々しさを感じさせますが、自分の肉体の価値を保険金の査定の様に淡々と数値化、金額化されるシーンには、不条理さを通り越してある種の滑稽さを感じずにはいられません。

自身の臨終の様子を見ることになり、両親や友人の行動をマジマジと見せ付けられることになったヤスオの胸中や、とある女性入院患者とのふれあいが描かれるシーンは、かなり非現実的で特殊な光景&内容ではありますが、そこが独特のファンタジックさを醸し出していて面白かったです。
基本的には、おっさんの割には口調が軽くて、駄洒落を交えつつツッコミ役もそつなくこなすヤスオの雰囲気が大衆小説っぽさを感じさせる本作ですが、そういったファンタジックなシーンでは文学的な言い回しが用いられている部分もあるのが特徴的でした。

伏線に関しては、ものすごくハッとさせられるような展開はないものの、オチの部分は綺麗にまとめられており、購入前に期待していたもの以上のものが読めたので満足出来ました。
「○○ページと○○ページの間に〜」という謎かけが作中に登場するのですが、そのページを示すフォントの部分だけが他のページと変えられていたりするあたり、芸が細かくてニヤニヤでしたw
あと、ラストの232ページのキャラ名のところがシールで訂正されているのは、単なる誤植なのか演出なのかも気になるところだったり。
このオチなら、わざとそうしているのかな…?と深読みしてしまうのですが、果たして?

結末は、適度な余韻を残す感じの締め方になっており、『これこれこういうことです。』と作者の考えを押し付けるのではなく、読者自身に考えさせる様な終わり方なので、感想は十人十色になりそうな気がしました。
『全ド協』の細かい設定や謎の部分についても、すべてが解明されるわけではないのでミステリアスなまま残されてしまっている部分もありますし、キョウヤの行動や真の目的についても、ある程度自分の予想を加えつつ想像しないと説明がつかない部分があったりするので、そこをどう評価するかでかなり印象が変わりそうかと。

文体の特徴などについては、ページ数はそこそこながら文字の大きさも大きめ&短い会話文で改行多めということもあり、読了までの時間数は1時間〜1時間半といったところかと。
ファンのかたはもちろん、話題性に惹かれて読んでみようかな?という方にも気軽に手を出すことが出来るのでオススメです。

どちらかと言えば、ドラマや劇のシナリオとして映像化するのに向いた台詞回しや舞台設定なのは、俳優として活躍された水島さんらしい個性だと言えるかもしれませんね。
俳優業から執筆業へと転身されたことは大きな話題を呼びましたが、小説作家としての道のりはまだ始まったばかりですから、今後も定期的に2作、3作とヒット作を出し続けることが出来るかどうか、とても楽しみです。
華々しいデビューをプロデュースすることに成功したポプラ社の編集者さんには、このまま水島さんの才能を丁寧に伸ばしていって頂きたいですね。


気になった方は、是非チェックなさってみてくださいませ。

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